一年
一年だ、あれから一年。
今年一年、ってことを振り返るのはきっと、あと数日後のことで、クリスマスに考えることなんかじゃない、とおもう。けれど、考えることをその日って決めることはできないし、わたしにとってはクリスマスのほうが一年を考えてしまうみたいです。
今日はクリスマスじゃない、なのに、そんな気持ちでなぜだかいっぱいで、明日がクリスマスイブで、平日に訪れるクリスマスなんて信じていない。クリスマスが来ることを何にも本当はおもっていない。ただケーキが食べられて嬉しい。
土曜日なのに、喫茶店は、とても空いていて、とても静かだった。静寂が街中に溶けているようだった、現実はきっと喧騒、だけれど僕と君だけは違っているね、とっても居心地が良いからこっちが現実だ。
もともと本を読んだり映画を観たり演劇を観たりすることが好きだったのに、それができなくなってしまって、好きなのに好きでいれてないようで、読めた観れた、としてもほとんど憶えていられなくて、それが苦痛だった、感じることを、憶えていられないのが、苦しかった。
一年前はそんなんじゃなかったけれど、段々わたしがわたしで失くなっている感覚はあったし、言葉が出なくなったり感じたことをそのまま言うことが正しくないんだとおもってしまったり、好きだったわたしに自信がなくなって、好きでなくなっていってたんだな、って今になっておもう。
わたしの正しいを、わたしの真夜中を、削がれていくようだった。
だから何も信じられなかったし信じてなかったし未来なんて希望なんて大人なんて、とおもっていた。悲しみこそが希望だった。楽しいよりも切ないほうがよかった。デパ地下で、タクシーで、東京タワーの下で、漠然と言葉にできないままおもってたことがいくつもあった。今ならわかることが、たくさんある。
けれど書くことはやめないでいて、本当によかった。
これが何にもならないかもしれない。小説でも詩でも評論でもないしただの感情だ、でも、この感情は、わたしだけのものだ。
それを、今は、守りたいよ。
プーさんの言葉を借りるならたった数ヶ月だけれど、「何もしないをする」ってことをしていて、それがとっても退屈で、暇で暇で暇で暇で潰れそうにもなったし今もある。けれど書いてるとそうじゃない。書いてるとわたしがわたしでいられるんだと、おもう。
わるいことばっかりじゃない。敬愛するひとが涙を流しながら
「いずみさんはわたしの誇りだよ」
と言ってくれた一月もあった。
何も言わずにじいっと来てくれてた紺色の背中もあった。
空白の一ヶ月は何もかもで満ちていた、春と夏の隙間だった。
何もかもが直結する思い出が満ちている。
わたしにはあなたがいた。
あなた、はたった一人のことじゃなくて、たくさんのあなた、です。
空虚感も虚無感も焦燥感もまったくない訳じゃないよ、心底ある。
でも、あなたがいたから。
後悔も懺悔もごめんもありがとうも取り返しがつかないももう戻れないもある。けれど、生きてる。死ぬことなんて、できなかった。
どうなるのかなんて分からないけれど生きている。
あなた、がいるから、わたしは生きています。
一年前に見たものがまるですぐそこにある。でももう、どこにも、ない。
未来はきっと、どこにでもあって、どこにも行ける。どこでもあなた、が、わたしを救ってくれたことは、消えないよ。
また一年後、出会えますよう、祈りを込めて。