春を憶えに

冬の真夜中を何度も何度も何度も歩いて日々を渡った、さむくて骨の芯まで冷えてしまうから冬はなるべく外に出ていなかった少女が大人になったら一等寒いであろう真夜中と明け方を歩いていた、家で本を読んでいたらどこへでもいけたし、夢のなかはあたたかかったし、インターネットに世界はあったし。けれど、いまのわたしの世界はここ、にしかなくて、歩いた道は残る、朝、電車の窓から歩いたことがみえる、みえる、すべてをみわたす

冬の最後の日、わたしたちはカメラを手に入れた、真夜中の公園で、ひとつ千円で、フィルムカメラで。使えるのかも映るのかもわからないけれど、わたしたちは後ろ髪を引かれて公園へ戻って買っていた、そこからまた歩いて、歩道橋を渡って、眺めていた、冬を、最後を、今日を、いまを。春を残すために、わたしたちはカメラを手にしたのかもしれません

春が起動して、それは光で、明確に、わかる、わかる、すべてを和解して

春のはじまりの日、横浜から王子に行って、ああこの場所って、夢で、舞台観にきたんだった、そして現実で、観にきたんだ、ようやくわたしはわたしに辿り着いんだね、あなたとの夢、冬のすべては閉まって、さよなら冬の、愛しさを、春を憶えにわたしは行くね

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1:45 am  •  2 March 2018